『Specific antiproliferative activity against human cancer   cells with metabolites from several species related

                 to the genus Cordyceps』

冬虫夏草属13種の二次代謝物のヒト癌細胞に対する特異的抗増殖活性について

従来の抗がん剤は細胞毒の観点から開発されたものであり、正常細胞にとっても毒となります。日本に生息する多種類の冬虫夏草属を多種類のがん細胞にあててスクリーニングをしました。すると、ガン細胞は死滅するが正常細胞は影響を受けない(細胞特異性)という驚くべき結果が出ました。

海外の学術誌『IJCMAS』の審査を通過。2014年5月号に掲載

ガン細胞は死滅させるが正常細胞は無事

 今回の研究で、我々は16種の日本に生息する冬虫夏草属=虫草 Cordyceps、Ophiocordyceps、Isaria 属の人工培養に成功し、その二次代謝物の、数種のヒト癌細胞に対する抗増殖抑制活性に関してスクリーニングした。人工培養した13種の虫草 Chu-Soh の二次代謝物(活性代謝液)を凍結乾燥後、リン酸緩衝液に溶かして、in vitroにおけるヒト癌細胞5種に対する抗増殖抑制効果について検討した。

 13種のうち、マルミノアリタケCordyceps formicarum をはじめとする6種は、正常細胞(ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF))に影響を及ぼさない低濃度ではほとんど効果は認められなかった。一方、サナギタケ Cordyceps militaris をはじめとする3種は、ほとんど全ての癌細胞の増殖を有意に抑制した。

 ベニイロクチキムシタケCordyceps roseostromata の二次代謝物は、白血病細胞(U937)及び乳癌細胞(MCF7)に対して極めて強い増殖抑制活性を示したが、ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF)への影響は認められなかった。
 ハナヤスリタケ Cordyceps .ophigoglossoides 、コブガタアリタケ Ophiocordyceps pulvinata sp.nov. 及び コナアブタケ Isaria sp. nov.,(Konaabutake)  は、低い濃度範囲において乳癌細胞(MCF7)、白血病細胞(U937)及び胃癌細胞(KatoIII)に対して効果的かつ特異的に増殖抑制効果を示した。これら4種の冬虫夏草が持つヒト癌細胞増殖抑制効果は、細胞の種類によって感受性が大きく異なる。
この事実は、これらのキノコの代謝液に含まれる未知化合物が、副作用が極めて穏やかな抗癌剤開発に役立つリード化合物と成り得ることを示唆している。

 この論文は、我々の計画に従って行われている新しい研究の最初の報告である。C. roseostromata  の二次代謝物の細胞増殖抑制効果は、癌細胞に対して効果が認められる濃度範囲において、正常なヒト皮膚繊維芽細胞に対する増殖抑制が殆ど認められない。付け加えて、我々はマウスに対する急性毒性および慢性毒性に関する予備的な実験を実施したところ、対照群と被験群の体重増加に大きな差異は認められず、被験群の摘出臓器についても異常は全く認めらなかった(data not shown、次回の論文にて公表)。

 以上の知見から、C. roseostromata の代謝液に含まれる何らかの成分が、副作用が極めて少ない抗癌剤の開発に貢献できる新規リード化合物と成り得るものと期待できる。現在、我々はC. roseostromata 二次代謝物中の活性本態を低分子化合物に絞り、各種有機溶媒によって分画後、活性画分を高速液体クロマトグラフィーによって単離精製することを進め、その化学構造の決定をNMR法等による機器分析を中心に進めている。一方、クロマトグラフィーにより精製した活性画分の抗癌活性機序を解明するための実験とマウスに対する毒性試験を正確に行い、次回の論文においてその詳細を公表する予定である。

 さらに、その他のChu-Soh  3種〔Cordyceps ophigoglossoides, Ophiocordyceps pulvinata sp.nov. 及びIsaria sp. nov.(Konaabutake)〕も、正常細胞に影響しない低い濃度範囲において細胞特異的に癌細胞の増殖を抑制する。従って、我々はこれらの菌からもコルジセピンやエルゴステロールパーオキサイド以外の新たな抗がん剤のリード化合物が発見できる可能性が高いものと期待し、近い将来、これらの研究を始めるつもりである。

 

長崎国際大学 薬学部教授 小林 秀光共筆


スクリーニング表

 Table 1. Growth Inhibitory Effect of Secondary Metabolites of Cordyceps,

Ophiocordyceps and Isaria species.

《日本産冬虫夏草のガン細胞に対する直接的作用》

Cordyceps species

U937

白血病

細胞

MCF7

乳がん

細胞

HCT15

大腸がん

細胞

KLM1

膵臓がん

細胞

Kato

胃がん

細胞

NHDF

ヒト繊維細胞

(正常細胞)

Cordyceps militaris

サナギタケ

++

++

++

+

++

-

Cordyceps roseostromata

ベニイロクチキムシタケ

 

+++

極めて強く抑制している


++

+

+

+

-

Cordyceps ophioglossoides

ハナヤスリタケ

-

++

+

-

-

-

Ophiocordyceps pulvinata sp.nov

コブガタアリタケ

++

+

-

-

-

-

Isaria sp.nov (Konaabutake)

コナアブタケ

-

+

+

-

++

-

Cordyceps formicarum

マルミノアリタケ

-

-

-

-

-

-


Cytotoxic activity of Cordyceps, Ophiocordyceps and Isaria species. A. Cell viability (%) was quantified by the WST-8 assay. Cancer cells: U937(leukemia cells), MCF7 (breast cancer cells), HCT15(colorectal cancer cells), KLM1(pancreatic cancer cells) and  Kato(gastric cancer cells). Normal cells: normal human dermal fibroblasts (NHDF). 160 mg/ml of Cordyceps, Ophiocordyceps and Isaria species was administered to each cells. Cell viability; +++ : 30% or less, ++ : 3150%, + : 51-70% and - : more than 71%.  Data are the means of triplicate assay mean ± SD