冬虫夏草の不思議

 冬虫夏草属とは、様々な虫(寄主)に寄生し、その虫の栄養を利用してきのこ(子実体)を発生させる菌です。子実体は寄主ごとにそれぞれ形の違うものを発生させます。世界中では約400種ほどが知られており、日本産の種は300種以上といわれております。

 

 東北大学植物園では、これまで収集した中から87点(72種類)の標本を「矢萩コレクション」として展示しています。園内で発見されたものもあります。また、ヒメオオクワガタに寄生したクワガタムシタケは世界唯一の展示となっています。

薬学博士 矢萩信夫

写真はムネアカオオアリに寄生した冬虫夏草の標本です。この種は木の上にいることは珍しくありませんが、通常、木の上で生活しないアリもこのように発見されています。

 

何故でしょうか?

 

冬虫夏草はキノコですから、胞子を飛ばして繁殖します。そのためには、高くて安全な場所、すなわち木の上が好ましいのです。

 

まるでアリの意志をコントロールして、木の上に這い上がらせ、しっかり枝をロックした瞬間にその体を乗っ取るのです。

 

冬虫夏草は寄生した昆虫を生存競争で勝ち抜くように指示し、共存しているような気がするのです。


2008年4月、山形県鶴岡市在住のクワガタムシ収集家のブログに不思議な写真が掲載されていました。

 

黒い昆虫に冬虫夏草が寄生し、子実体を発 生させている写真でした。早速連絡を取り鶴岡市まで行き、目にしたのは全長5cmほどのヒメオオクワガタ(オス)に寄生した冬虫夏草でした。


 冬虫夏草がクワガタムシに寄生したという事例は今までに報告されたことはなく、とても貴重なものであったため譲り受けました。さらに成長を観察すると42日後には子実体の先端が枝分かれし、白い粉状の分生子が生じました。


次に生じた分生子を寒天培地に接種して成長を観察すると、接種から60日後にはヒメオオクワガタから発生したものと同様の子実体と分生子が発生しました。


この一連の観察は2009年5月日本菌学会会報(第50巻 第1号)に掲載されました。

 

このように現在でも新種が発見される可能性があるのです。もしあなたが新種を発見したら、学名にあなたの名前が入ることになるかもしれません。

 

世界に唯一のクワガタムシタケ(仮名)標本公開展示中
クワガタムシタケ(仮名)液体標本は東北大学植物園の常設展示「矢萩コレクション」にてご覧いただけます。

あなたも冬虫夏草を見つけませんか?

冬虫夏草を見つけるには、まずどんなものなのか、実物を観察してみましょう。

 

東北大学植物園の常設展示「矢萩コレクション」にてご覧いただけます。また園内では名物のツクツクボウシタケ以外にも、多くの冬虫夏草属の仲間を観察することができます。

 

季節や場所によって発生する種類が違います。いろいろな場所を観察してみてください。


園内の調査で発見した冬虫夏草属の写真です。

※ご注意 天然記念物である園内では、採集は固く禁じられています。冬虫夏草属の種類も減ってきております。保護にご協力下さい。