亜急性毒性試験

亜急性毒性試験

 

東北大学大学院薬学研究科

 

国立東北大学大学院薬学研究科にて日本冬虫夏草培養液のin vivo(生体内実験)における毒性の有無を評価することを目的としてマウスに 日本冬虫夏草培養液の凍結乾燥粉末を2週間にわたって連続的に経口投与し、 体重変化、血算、および肝毒性を指標に亜急性毒性の試験を行いましたので以下に概略を記します。

 

【実験方法】

5〜6週齢の雄性マウスを用いた。

日本冬虫夏草培養液上清は矢萩信夫氏(自然薬食微生物研究所所長)から提供されたについては、これをさらに凍結乾燥して粉末とした。

マウスを一群あたり10〜11匹で検体非投与群1と検体投与群3とし無作為に4群に分けた。培養液上清粉末の投与量は 100,10および1mg/kg/dayとして生理食塩水に溶かして調整し、マウスに一日一回、17時に経口投与(0.1ml/10g body weight)した。なお、コントロール群(検体非投与群)には培養液粉末の溶剤である生理食塩水のみを投与した。

 

【亜急性毒性の評価】

体重変動:マウスの体重計測は検体あるいは生理食塩水を投与する前に1日1回測定した。マウスの体重は群によってはばらつきに偏りが生じるため各群の投与開始初日の体重の平均を1として、この値に対する増加率で算出した。

血算:14日間の検体投与が終了した後に、心臓採血を行い赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、ヘマトクリット値(HCT)、ヘモグロビン値(HGB)そして血小板数(PLT)を計測した。

臓器重量:投与終了後の採血時に剖検し、肝臓、脾臓、および腎臓を摘出してそれらの臓器の湿重量を測定した。

肝逸脱酵素(ASTとALT)の測定:採血終了後に一部の血液を遠心して血漿を摂取し、血中のトランスアミナーゼのALTとASTの酵素活性を測定した。

有意差検定:すべてのデータは平均値±標準誤差で表示した。薬理統計学的有意差の算出に関しては、ANOVAで検出した後にDunnett'sの多重検定で処理し、対象群と比較して5%以下の危険率が認められた場合に有意差があると判定した。

 

【結果及び考察】

14日間にわたって3種類の用量(1,10,100mg/kg/day)の培養液上清を与えた場合、体重変化は検体非投与群と比較しても全く差は認められず、同じ比率で体重が増加した。なお、実験終了日まっで致死率についても併せて観察を行ったが、高用量の 100mg/kg/dayの投与群でも急性的な致死や衰弱は全く認められなかった。

 

剖検の結果、胃、十二指腸、小腸、および大腸に肉眼的な異常所見は全く認められなかった。毒性が端的に現れる臓器である肝臓、脾臓および腎臓についてこれらの臓器の湿重量を測定したところ、図2に示すように100mg/kgの用量の投与群で肝と腎でわずかながら萎縮が起こったが脾臓の萎縮については有意な差は認められなかった。肝臓及び脾臓では炎症応答が誘導されるなどした場合、それらの臓器の腫脹や鬱血が認められるが、いずれも肉眼的に異常は認められなかった。さらに、胆嚢異常や脂質代謝の異常を示す胆嚢内の胆汁混濁も認められなかった。

 

14日間の投与終了後に血液を採取し、血算値を調べたところ、白血球数、ヘモグロビン、およびヘマトクリットレベルは全く差は無かった。赤血球数はすべての用量においてわずかながら増加したが有意差は認められなかった。さらに血小板数については赤血球数の場合とは異なりいずれの用量の投与群においても減少する傾向が見られたが、有意差は認められなかった。

最後に薬物の安全性を評価する上でもっとも普遍的に用いられる肝臓実質細胞から逸脱する酵素(トランスアミナーゼ:AST=GOTとALT=GPT)の血中レベルを測定した。薬物は肝で代謝を受け解毒される過程で、毒性が強い場合、薬物が肝実質細胞を壊死させ、正常であれば血中には漏出してこないトランスアミナーゼ(酵素)が検出されこれらの酵素レベルが上昇することが良く知られている。結果を図4に示したが14日間にわたって経口投与したとしてもASTとALTレベルは投与しないグループと比較して上昇することは無かった。

 

以上の実験結果から培養液には経口投与において臓器に炎症を起こしたり致死をもたらしたりする、いわゆる急性あるいは亜急性毒性はないと考えられた。

本実験でマウスに与えた投与量(1,10,100mg/kg/day)を培養液上清量(mL数)に換算すると 100mg/kg/dayでは50kg体重あたりの大人が一日に4.5〜5Lを服用することに相当する。したがって100mg/kg/dayの用量はヒトでは現実性のない極めて高用量であると位置づけることができる。

したがって、急性・亜急性毒性試験において日本冬虫夏草培養液上清には毒性はないと結論された。